Imitation Lover
light 2006/1/27
企画・原案・ディレクター:正田嵩
シナリオ:中島聖/黒田百年/伊藤ヒロ 原画:泉まひる

”心”と”体”という言葉をキーワードにした恋愛AVGです。

シナリオ自体は大して珍しい内容でもないですが、オープニングの始まり方が上手く、シナリオの方向付けがハッキリと提示されていて判り易いです。そのため、作品の世界観に入り易い内容でした。またシナリオには順序立てた展開と説得性があり、何の捻りもない展開ですが楽しめます。そして、主人公の心理描写がしっかりとされており、主人公に共感が持てるかどうかは別の話ですが、主人公の心理に自分を準えて考えてしまうような展開・表現にしているのは上手いです。表現は簡潔で必要な部分しか描写されていません。また、テキスト描写は適度に丁寧であり、幾つかの伏線も後半の各登場人物の心理描写を推測させる材料にしっかりとなっていました。
前半は、”心”と”体”は別であると主張する城戸尚也の言葉を、否定したいが否定できない主人公の葛藤が上手く表現されていて、それが後半の、”体”の一之瀬響と、”心”の園村円香…を分別して考えてしまった主人公の苦悩が描かれます。
基本的にシナリオは、主人公とヒロインとの考え方の行き違いが描写されており、それは主人公の友人である城戸尚也という存在があってこその内容です。また、主人公達とは違い、身体的な理由から”心”と”体”を違う解釈に捉えざる得ない一之瀬響という存在。そして、一之瀬響に対して強い劣等感を持つ園村円香という存在があってこそのシナリオの内容になっているので、各キャラの設定とシナリオを上手く構成できている作品だと認識させられます。また、シナリオ全体を通してみればそれが最少人数であるということもわかります。つまりは、シナリオにおいては不必要な部分がほとんどなく、ダラダラと助長された展開というものがありません。テンポ良くシナリオは展開し、メリハリのあるシナリオの展開があるために飽きることなくプレイできたことは賞賛に値します。
エンディングは捻りも何もない普通のハッピーエンドです。しかし、それでも上手く完結しているということでさほど不満は感じません。ルートは、一之瀬響がシナリオの核となるルートとなっており、それを分岐するカタチで園村円香のルートがあります。話の主軸がかなり一之瀬響に向いているため、園村円香のルートは弱冠登場人物の心理描写に疑問のある部分はあるものの、大幅に矛盾する部分はないため被害は最小限度に止まっているという印象です。共通パートがかなりの部分を占めるため、やはり一之瀬響メインで、園村円香のルートはオマケと見るのがよいかと思います。
城戸尚也のルートは、園村円香のルートを受け継ぎながらも別イベントが描かれるため、別物語として捉える方が良いです
Hシーンはかなりの頻度で発生します。作品全体を通してみても1回のプレイで見れるシーンは多い方かと思います。


ビジュアル面は、かなり良い感じです。イベント絵の表示が頻繁にあります。また、Hシーンの回数も多いため、作品を通して1枚絵の表示が結構多いという印象を持ちます。絵も、この原画家にしては大分見れる絵になりました。昔のような区別のつき難いキャラの絵ではなく、キャラクターを個別にしっかりと認識できます。塗りはワザとでしょうが、影の付け方が弱冠微妙に見えます……。立ち絵は3パターンくらいあり、ポーズも変化が感じられますし、ゲーム進行においても立ち絵の変化も激しいです。また、立ち絵の演出も良好です。

システム面は、light作品とは思えないくらい快適なインターフェイスになったという印象です。以前のストレスの塊だったシステムの面影がありません。テキスト送りも良好で、快適にプレイできました。

ボイスは女性キャラと一部の男性ボイスという変則的な仕様です。城戸尚也と来栖樹のボイスは、主軸視点の時にはボイスがありません。
BGMは作風に合っています。BGMの演出も上手く、場面展開に合った選曲とわかります。


プレイした印象は、良作です。
内容的には在り来たりの内容ですが、

・キャラクターの設定が徹底している
・立ち絵の演出が上手い
・BGMの演出が上手い
・表現は簡潔でわかりやすい
・余分な記述がなくテンポ良く進む
・起承転結があり、順序立てた展開と説得性がある
・登場人物の心理描写がしっかりとされている

というようなゲーム制作においての上手さを感じます。
あとは、会話の間合いが上手い…というのもこのシナリオの特徴でしょうか……
Hシーンは多いのでエロゲとしても機能するかとは思いますが、日常会話中心の単なる純愛系のAVGを求める人には向かない内容です。あくまで、恋愛における”心”と”体”がテーマになっています。



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以下、日記からのログです。ネタバレの可能性あり

2006/02/07
”めいどさん★すぴりっつ!”をプレイし始めましたが、思いのほか…面白くないですね…。”魔法はあめいろ?”がそこそこ楽しめた作品だっただけに、やはりドタバタ系の部分を抜いてしまうとこうなってしまうのか……。

結局、”めいどさん★すぴりっつ!”は後回しにして、”Imitation Lover”に手をつけ始めました。この作品はlight作品ということで全く期待していない作品なのですが、プレイし始めるとlight臭さが全くなくてよい感じです。オープニングから惹きつけられる作品です。展開の持って行き方が上手いし、文章の表現も回りくどいものがないので良好。読み易いです。場面描写も適度に丁寧に描写されているという印象。シナリオに難解さが全くないのも良好。あとは1枚絵の表示も適度に多い。BGMの演出も上手いし、立ち絵の使い方も上手い。あと、一番気になったのは、会話の間合いの取り方がひじょうに上手いということ。プレイしていても文章をしっかりと読もう…という意欲が出ます。
これって…本当にlightが制作したのでしょうか…??
light作品では”僕と僕らの夏””Dear my Friend”がまだマシな作品ですが、お世辞にもオープニングから惹きつけられる作品ではありません。そう考えると”Imitation Lover”はオープニングから良い感じなので好感触ですな…。
システム周りも従来のストレスの塊だったlightのシステムが改善されているし……これほど快適にテキストが読めるのはlight作品では有り得ない(笑
まぁ、問題は作風になるのでしょうけどね…。個人的には別段問題なし。私にとっては主人公の心理描写が丁寧にされていれば、作風がどうであろうと一向に構いません。まぁ、例え尻の軽いヒロインがいようと、この作品を否定する要因でもないしね。
まだ1つもエンディングに到達していませんが、前半でこれだけのクオリティがあれば多分問題はないでしょう…と思います…。シナリオライターは3人いるようですが、三者三様にならないことを祈りつつ。

2006/02/08 Imitation Lover
メインルートの一之瀬響を終えました。
多分他は共通パートになるので、シナリオの接合性がどこまで保てるかが鍵になりそうですが、現時点でのネタバレレビューをここに投下。

順序立てた展開と説得性があり、捻りもない展開でも楽しめる。
主人公の心理描写がしっかりとされており、主人公に共感が持てるかどうかは別であるが、主人公の心理に準えて考えてしまうような展開にしているのは上手い。表現は簡潔で必要な部分しか描写されていない。また、テキスト描写は適度に丁寧であり、幾つかの伏線も後半の各登場人物の心理描写を推測させる材料にしっかりとなっていた。
一之瀬響はある意味で物凄く純粋。主人公を好きになるがそれを感じさせない努力をし、園村円香の主人公を想う気持ちを重んじる。一之瀬響の”心と体”の意味は、子供の産めない一之瀬響が恋人として振舞う関係において心の絆を共有できないということから来ているが、主人公は普段の付き合いである親友・城戸尚也の言葉の”心と体”の意味とを履き違えてしまうことから、(主人公からの一方的な)行き違いが起こった……という話に帰着する。というのも、前半部分から既に一之瀬響は主人公と園村円香をくっつけようという意図が読み取れていたため、一之瀬響の行動は終始一貫していることになる。
……難しい話は置いといて、
主人公が一之瀬響を好きだと気付くのは中盤辺りから。
話の流れは、逃げれば追いかけられ、追いかければ逃げられる…というような上手いバランスを序盤から展開しているのが好印象です。

2006/02/10 Imitation Lover
終了。評価は、かなり迷いましたが9点付けました。どの道、エロゲの評価についてで私の評価は前後1点の誤差を生じると書いてあるので、思ったとおりの点数をつけることに。まぁ、8点だろうが9点だろうがあまり深く考えないでおこう……。

で、ネタバレレビュー最終投下
〜〜園村円香ルート〜〜
基本のルートが一之瀬響のルートを引き継いでいるためか共通パートのため、弱冠説明というか…状況的に疑問の残る部分がある。別れたと思ってたら正式に別れると言うし、付き合い始めたと思ったら…正式に付き合い始めると言う始末…そういった部分で弱冠戸惑う。
しかし、共通パートがこれだけ被ってる割には被害は最小限で抑えたという感じはある。
園村円香は、幼馴染の一之瀬響から自分を比較して劣等感を感じており、一之瀬響から勝てるものを模索している。主人公に告白するのも一之瀬響の影響。主人公は”心と体”について悩んでおり、一之瀬響とは体の関係。そして園村円香には心の関係を求めた。しかし、一之瀬響から劣等感を感じている園村円香には心だけの関係では満足できない。逆に主人公は体を求めると一之瀬響と同じ関係になると考えてしまう。そういった行き違いを描いた内容。

〜〜城戸尚也シナリオ〜〜
3人のライターがそれぞれ違うルートを担当してるのだろうと思う。
中盤までは、園村円香ルートのシナリオ設定通りに行くが、途中から話の内容が段々園村円香ルートから外れていく。それに伴って、来栖樹、一之瀬響、園村円香といったキャラの心理描写が、一之瀬響ルートや、園村円香ルートとは食い違っているように思える。よって、これはこれで別物の話として捉えないと一之瀬響ルートや、園村円香ルートと接合性が保てないような気がした。
話の流れは、単に桐沢伊織のハッピーエンドを付け加えたものだった。一之瀬響ルートや、園村円香ルートの視点切り替えによるシナリオの補填と思っただけに少し残念…

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