Scarlett〜スカーレット〜
ねこねこソフト 2006/05/26
ディレクター:片岡とも プロデューサー:片岡せいやん
シナリオ:片岡とも/木緒なち/秋津環/海宮一/大月佑佑 原画:秋乃武彦/あんころもち/司ゆうき/ミヨルノユメギ/仲本六日

諜報のエリート家系の子息、別当和泉九郎スカーレットの生き様を、
平凡な日常から抜け出したい普通の学生、大野明人の視点を通して描く物語です。

物語の視点は、大野明人の視点から始まりますが、
ゲーム全体を通せば、別当和泉九郎の視点が中心となっているAVGです。
視点の切り替わりは頻繁に起きます。
しかし視点が切り替わるときには、
プレイヤーにわかるような工夫がされていますので、
混乱することはありません。

シナリオは大きくわけて4つの話から構成されています。

最初は、別当和泉九郎の父:別当和泉八郎の依頼により、
アメリアという少女の保護から始まります。
そして、アメリアの特殊な能力…
からシナリオが段々に発展していくという展開になります。

このパートは、八郎の依頼というイベントを通しながらも、
平凡な日常から脱したい大野明人が、
別当和泉九郎の妹、別当和泉しずかを通して九郎に取り入る…
という事柄がメインになるパートです。
そして、このパートの最後に明人が非日常的な世界に踏み入れるイベントが描写されます。
これをきっかけにして、シナリオは次々に発展していきます。

シナリオは一本道であり、
イベントも前後関係がしっかりとしています。
一つのイベントがきっかけとなり、次のイベントを引き起こす…
という仕様であり、これがテンポ良く進行していきます。

この作品の世界観は、九郎や八郎の世界である諜報…
という非凡な日常が描かれていくわけですが、
プレイヤーに理解しやすいように誘導するような文章構成になっています。
また、一つの区切りの部分では、
それまでの大まかなあらすじが表示されるなどの工夫が施されています。
こういった部分で、色々とシナリオを把握し易いようにされているということで、
敷居の低い作品であると感じます。

エンディングは序盤に撒いた明人の伏線となるイベントが岐路となります。
これで、九郎の生き様と明人の望む世界…
というある種の一貫したテーマを描ききったストーリーと言えるでしょう。

エロは、ほとんどありませんので、エロには期待しないほうが良いです。

ビジュアル面は、良い感じです。
1枚絵のイベントCG表示が頻繁にされます。背景も綺麗に描かれています。
エロシーンがほとんどないためにエロ絵は少ないです。
やや残念なのは、立ち絵はアングルが固定されています。
ポーズ違いで2〜3パターンはありそうですが、
アングル固定のために大きく変化している気配を感じません。
表情はテキストに合わせて頻繁には変化します。
ただ、1枚絵の表示が多い分、立ち絵はあまり気にならないです。
テキストもテンポよく進行しますし、飽きることはないでしょう。

システム面は、画像エフェクトが切れません。
しかし、エフェクトがあってもさほどストレスに感じることはありませんでした。
場面切り替わり時は、やや遅い…と感じます。

ボイスは主要女性キャラのみという仕様です。
声はキャラに合っているという印象です。
BGMは、作風に合っている箇所もありますが、
全体的に緊張感を演出するまでには至らなかったのが残念です。

プレイした印象は、
素直に良作です。

作品の世界観に入りやすく、
理解しやすい内容であったこと、
それと色々とプレイヤーに理解し易いように工夫がされていたことは好印象でした。
また、テンポ良く進行するシナリオ展開に、
イベントが次々と発生していくシナリオ。
さらにイベントの前後関係もしっかりとした内容でした。

4つのシナリオを合わせた感じの構成になっていますが、
やや不要なパートがあるようにも思います。
ただ、最終的に九郎の生き様を描いた…
というテーマであれば、あながち間違っていない展開だと感じます。
また、シナリオの流れ的にも、映画を見ているような感覚にさせるなどの工夫も感じます。
一方でドラマ性の演出が上手く、
登場人物の置かれている状況などを利用して感動を誘うような展開も用意されています。

しかし、全体的に淡々としていることも事実で、
イベントにおいても描写が淡白になりがちです。
シナリオ進行のテンポが終始変化せず、
丁寧に描写するべき箇所も、丁寧さが全くありません。
特に登場人物の駆け引きを淡白にしてしまったことは致命的です。
また、作風から緊張感があまり感じ取られない…
というのも、勿体無いと思います。

ゲームは、細かい部分を気にせずテキストを淡々と追っていけば、
素直に面白いと感じ取れる作品です。
シナリオは恋愛…という方向には全く向いていませんが、
敷居が低く、作品の世界観に入りやすい…という部分を見れば、
万人向け…とも言える作品ではないでしょうか?


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以下、日記からのログです。ネタバレの可能性あり

2006/06/10
「Scarlett」プレイ中……

一本道のシナリオのようだ。
素直に面白いと思う。

流れるように進む軽快な描写と展開…
ある意味、描写が薄いと思うが、テンポは抜群に良い。

私が不満に思うのは、丁寧に描写するべき部分はもっと丁寧に描写して欲しい。
どのシーンも描写の淡々とした感じが同じペースで守られている。
例えば、シナリオ上として、
駆け引きの場面が幾つかあるのだが…
こういった部分は丁寧に描写して緊張感を盛り立てるべきだと思う。
それに心理的な描写も薄い。

あまりにもスムーズにシナリオが流れるので、印象が全体的に薄いと感じる。
描写は必要最小限度…という感じで、登場人物も必要最小限度…ってな感じかな。
無駄な部分は極端に省いた…という印象を受けるが、
弱冠省き過ぎなような気もする。

何も考えずにテキストを追っていけばそれなりには楽しめる作品だと思う。

まだ途中だけど、ラストはおそらくバラバラだったパズルのピースが、
一つにまとまる…という展開だろうな。
「銀色」「朱」と同じ手法だろうね。

ねこねこが目指す、「映画」のような印象をプレイヤーに植えつけようとしているのなら、
これが正解なのだろう。
淡々と物語が進むし、次にどういった展開になるか見たくなるような流れとテンポ…

しかし、私はこういった手法はゲームシナリオの流れには合っていないと思う。
文字で説明する…という部分においては、
シナリオの説得性を如何に説明できるか、
そして緊張感の演出、
登場人物の心理状態とそれに伴う行動……
…と、
そういった部分を描写できてこそAVGとしての機能を最大活用してるのだと思う。
今回の「Scarlett」はそれらが欠落している

まぁ、でも悪くはないんだけどね。
イベントは前後関係がしっかりしているし、
難しい説明もないから素直に作品の世界観に入れる。
こういった部分は賞賛に値する作品だと思う。

多分、このまま進んでも高評価になるかな。

2006/06/11
「Scarlett」

一通り終了。
ウ〜〜ン…
当初の予想ははずれ。
全ての話が最後に集約されるかと思ったけど、
・アメリアの暗号作成の話
・ミビア共和国の大統領選の話
が全く関係なかった……

とりあえず、諜報活動の一環を見せた…というパートか?

シナリオは作品タイトル通り「Scarlett」の家柄を継ぐ九郎の生き様を、
日常の生活を送るはずだった明人…という視点を通して描く…という内容のようだ

そういう意味では、
・アメリアの暗号作成の話
・ミビア共和国の大統領選の話
もあながちアテが外れているワケでもないと思う。

重点的には、諜報一家の家柄を継ぐ九郎の視点が描かれるが、
重要な部分はほとんど明人の視点になっている。

主人公が誰か?
という部分においては、難しい話ではあるが、
この作品においては主人公が誰かと言及するのはナンセンスだろうと思う。

何にしても面白かったよ。
何も考えずにプレイすればね。

納得できない部分もあるけど、
この作品の場合、そういった部分の説明が薄いから、
「そういう状況なんだから仕方ない」
と言われればそれで終わってしまうかな。

諜報員の更に上の存在と言ってもなぁ……
そういった設定はあまり深く考えてプレイするな…ということか。

細かい部分はさておき、素直に面白い。
これは設定がどうのこうの…というのではなくて、
ドラマ性の演出の持って行き方が上手い。
こういう部分は素直に賞賛できる。

取り敢えず、ゲームの細かい設定にツッコミを入れるより、
描かれるドラマ性をいかに楽しめるかが「Scarlett」を楽しむためのコツだろうね。

個人的には結構楽しめた。
不満点は、前日の日記に書いたことそのまんま。
・シナリオの説得性
・緊張感の演出不足
・登場人物の心理状態とそれに伴う行動
かな。
駆け引きの描写がイマイチだったのがチョイとダメかな。

でも、よい部分は多いよ
・テンポが良い
・描写が最低限のものしかない。簡潔
・作品の世界観に入り易い(コレ重要)
・はっきりとした起承転結
・ドラマ性の演出(泣けはしないが感動できる)
・イベントの前後関係がしっかりと描写できている
かな。

評価:良作。点数8点か9点付けるかも。
何も考えずにプレイすれば、序盤からラストまで作品に惹きつけられる内容だろう。

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